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三国戦争編2

次から戦闘に入ろうかと思います。
とりあえず新キャラ一人追加!



続きは小説です。



「よくぞ来てくれました。貴女がいれば心強い」


歩み寄るダズに、ユノンは穏やかに語りかける。


「勿体なきお言葉、身に余る光栄です」


ダズは片膝をつき、頭を垂れた。

そんな彼女に、前に同様に片膝をついていたネオが立ち上がり、振り返った。


「貴殿があの首都防衛戦で、ユノン様を助けてくれたという騎士か」


そしてゆっくりと歩み寄り、右手をあげた。


「我が名はオオニシ=ネオ。今回の作戦への助力、感謝する」


「えぇ、こちらこそ」


ダズも右手を出し、二人は硬い握手を交わした。


「では、ダズ。貴女はネオの補佐役として、本隊を率いてください。細かい判断の決定はネオに任せますので」


「了解しました。必ずや我らが王国に勝利を」


ユノンの言葉に、ダズは再び深々と頭を下げた。

その返答に満足するように、ユノンは全員に向き直る。


「では、それぞれの部隊の手筈は整っています。どうかお気をつけて……皆の無事なる帰還を願っていますよ」


「「はっ!」」


その言葉に、場にいる全員が同時に返した。

しかし、ネオだけは表情を強張らせ、再び口を開いた。


「一つ、気になる点がございます」


「……?どうしました、ネオ」


ユノンもその様子を感じ取る。

躊躇いながらも、ネオは続けた。


「偵察に出た部下からの報告なのですが……アルナベルツ教国の本隊に、"奴"がいるとの情報です……」


その言葉でユノンは全てを理解し、困惑の表情を浮かべる。

横にいたヒナノも、同様だった。
思わず口を開いてしまう。


「ま、まさか……そんなのおかしいよ!」


「優秀な偵察達です。見間違いは恐らくないでしょう。このままでは、戦うことになりますね……」


ユノンとヒナノとネオを除く四人は、奴というのが誰なのか、どういう状況なのかはわからない。

だが、驚くべき、予想外の事態ということだけは理解できる。


「その、"奴"というのは…?」


タイタンがそれを確かめるべく、口を開いた。


数秒の沈黙の後、その質問に応えたのはユノン。
表情は険しいものだった。




「"元"プロンテラ騎士団……総隊長………」




















「わあ……これが"ウォーグ"ですか」


マツリの操る狼を前にし、菫吏は感嘆の声をあげる。


「うん、見た目は怖いかもしれないけど、優しい子だよ」


マツリが背に跨がりながら頭を撫でてやると、狼は嬉しそうに目を細めた。


「くれぐれも気をつけろよ。陽動部隊は無理をする必要もないんだからな」


二人の側にいたタイタンは、マツリに声を掛ける。


「大丈夫!とーりんもいるし、こっちは任せて。おじさんも気をつけてね!」


「全力を尽くします。タイタンさんもどうかご無事で……」


二人の明るい表情に、タイタンは少なからず安堵した。

まさかとは思うが、この役回りに畏怖の念を抱いていないかと考えられたからである。


「じゃあ、とーりんも乗って!」


「はい」


マツリが合図すると、狼はその場に座り、菫吏を背に招き入れた。


「では、陽動部隊出撃します!私に続いてください!」


「「はっ!」」


マツリが指示を出し、狼を走らせた。


ドドドドドッ!


それに数十名のペコペコに跨がった騎士達が続く。



その様子を後ろから見送るタイタンは、先頭にいるマツリが振り返り、手を振っていることに気付く。


「あいつ……ピクニックじゃねえんだぞ」


言葉とは裏腹に、満更でもない表情を浮かべ、手を振り返した。

マツリ達が見えなくなった頃に、一息を付く。



「少しは、親らしくなれたのかね。俺は……」


少し淋しげな表情をし、タイタンはその場を後にした。



















「ネオ隊長、一つお伺いしたい事があります」


「………"奴"のことか…?」


ダズの言葉に、ネオは察していた通りの反応を返してくれた。


「はい、その人物は何故……プロンテラから離れたのですか…?」


「……………」


尤もな疑問である。

ダズは先程、ユノンの推薦からルーンナイトへの転職を果たしていた。


それがプロンテラ王国で二人目となるルーンナイトであること、話にあがる"奴"というのがその一人目のルーンナイトであることを、ダズは話に聞いていた。


「……我の口からは言えぬ。すまないな」


ネオは小さく頭を下げた。


「いえ、大丈夫です。深い事情があることはお察しします」


ダズもそれ以上は聞くまいと、引き下がる。

その様子を見、ネオは再び口を開く。


「一つ言っておくとすれば……何故貴殿がこれだけの実力を持ちながら、"すぐにルーンナイトへと転職できなかった"か。その理由だ」


「理由、ですか…?」


ネオの意味深な発言に、ダズは首を傾げた。


「それは初代ルーンナイト、つまり"あの女"が………"強すぎた"からだ」


その言葉にダズは喉を鳴らし、体に一瞬走った震えに、己ですら驚いた。


「簡単なこと。あまりの強さ故に、"並ぶものがいなかった"のだ。貴殿が数年の長い時を経て、二人目に選ばれた理由がそれだ」


「つまり……その人が総隊長に就いていた間は、間違いなく"最強"であった、と」


ダズの言葉に、ネオは無言で頷いた。


「……では、もう一つだけお聞かせください」


「なんだ?」


確認しておきたいこと。
それは今後対峙するであろう相手への敬意とも言えよう。



「その人の、名は?」


「……………」


数秒の沈黙の後、ネオはゆっくりと口を開いた。




「……ジル=フィザット………」



















ネオとダズの本隊が、眼下一面に広がっていた。
その数は数百を越え、千へと達している。


プロンテラ城の上から、それを見下ろすユノンとヒナノは、風に吹かれながら淋しげな表情をしていた。



「お姉ちゃん……私達、"また"何もできないのかな…?」


「………ヒナノ……」


語りかけるヒナノの表情は沈んでいる。
王族である以上、この場から離れることのできない我が身を呪う。


それはヒナノだけではない。
ユノンも拳を強く握り締め、唇を噛んだ。


「ヒナノ、私達"双星の申し子"にできることは、彼等の無事を祈ること。そして、その働きを無駄にせず、未来へと繋げることです」


「……無事を、祈る…か……」


ユノンの言葉を、ヒナノは理解したくはないのだろう。

決して間違ってはいない。
だからこそ、心の底から悔しさが込み上げてくる。



その時、


「祈る………そっか…!そうだよお姉ちゃん!」


「え?」


何かを思い付いたように、ヒナノが表情を一変させた。

そしてユノンに背を向け、駆け出す。



「"祭壇"を借りるね!」


「ちょっと!ヒナノ!?」


思わずいつもの穏やかな口調ではいられなくなるユノン。

首都防衛戦で活躍をした祭壇ではあるが、非常に反動が大きく、ユノンは使用することさえ躊躇っていた。

それを今使う理由があるのか、ユノンには解らなかったのだから。














場面は戻り、ネオとダズは出撃の体勢を整えつつあった。


「ネオ隊長、いつでも行けます」


「よし……」


いざ片手を上げ、号令を掛けんとしたその時、



パアアアァァァ


千を越える本隊の上空から、それらを包み込むような光が降りてきた。


「こ、これは!?」


あまりに不可解な出来事に、ダズ周囲を見回すことしかできない。


「……"プラエファティオ"……ユノン様、ヒナノ様、感謝致します……」


ネオはその場に片膝をつき、プロンテラ城のほうを見た。


ダズは全身に走る感覚に驚いていた


「まるで何かに護られているようだ……」


「これで心置きなく、戦えるな」


バッ!


ネオは自分のグリフォンに飛び乗り、千の軍隊に向き直った。




「我等は誇り高き王国の騎士!!」


ネオの言葉に、全員が視線を集めた。


「我等が仕える主君は己が身を削りながらも祈り、無事なる帰還を望んでおられる!!」


シャンッ!


腰に下げた剣を引き抜き、高く掲げる。


「"双星"は我等に在り!!必ずや勝利をこの手に!!皆の者、我に続けえ!!!」



ウオオオオオオオオォォッッ!!!


全ての声が一体となり、平原にこだまする。

それが出発の合図となり、兵達はネオに続いていった。




ルーンミッドガッツ王国の進軍が始まった。



















時は遡り、数日前のアルナベルツ教国、"ラヘル"。


神殿前では、戦いに向けて数多くの兵達が集結している。

頭からすっぽりと被る覆面で、兵達の表情は伺えない。
これはアルナベルツ教国の正式な戦闘服ではあるが、異様な光景に変わりはない。



神殿内で、その兵達とは全く異なる戦闘服、例えるならまるで"プロンテラの騎士"のような格好をする女がいた。

女は神官達の前にひざまづき、頭を垂れている。


「神聖なるアルナベルツ教国の戦士、"ジル=フィザット"よ」


「はっ」


女の名はジル。

元プロンテラ騎士団総隊長にして、王国初代ルーンナイトとなった者である。


「そなたを、此度の戦のラヘル軍、総大将に任命する」


最も前にいる初老の神官がそれを告げた。


「有り難き幸せ。必ずや勝利の報告をしてみせましょう」


ジルがそれに答えると、神官達は唇を釣り上げ、不敵な笑みを浮かべる。


「期待していますよ、"真紅の龍騎士"。そなたに女神フレイヤの加護が在らんことを……」


神官の言葉を聞き終えると、ジルは再び頭を下げ、立ち上がりその場を後にした。






(権力の犬め……虫ずが走る)


ジルは心の中で呟き、表情を強張らせた。


(この世に神などいない。そんなものがいてたまるか……)


やがて、視界の先に外の光が差し込み始める。

全身が光に照らされ、その姿を現にする。



真紅の髪、真紅の瞳。
そして、外に待つのはルーンナイトのみに騎乗を許された"ドラゴン"。


間もなくして、"真紅の龍騎士・スカーレットリンドブルム"、ジル=フィザット率いるアルナベルツ教国軍が進軍を始めた。
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