三国戦争編23 その2
その1の続き。
続きは小説です。
続きは小説です。
「お犬様、もう行っちゃうんですか?」
チェムリットは淋しげな表情を浮かべ、タローを見た。
「あぁ、もう我の力も必要ないだろう。ダズリング、チェムリット、ユノンよ。そなた達には一度世話になった恩義があるのでな。これで全て返せた」
「ありがとうございます。タローさん」
「助力に大変感謝しております。砂漠の主よ」
その賢狼に、二人は頭を下げた。
「気にするな。我等はこれからも砂漠で静かに生きていく。何か助けが必要なときは再び砂漠へ来るといい」
タローはそう言い残し、彼女達の元から駆け出し、姿を消していった。
チェムリットは彼が見えなくなるまで、ずっと手を振り続けた。
「治癒の風、チェムリット。此度は貴女の魔法にも助けられましたね……何人の者が命を救われたことか。感謝してもしきれない程です」
ユノンは身分も忘れ、チェムリットに深々と頭を下げた。
その様子に彼女は慌て、両手を前で大きく振った。
「そ、そんな!頭をあげてくださいユノン様…!私はこの職業として当然の、できることをやっただけです…」
ユノンはゆっくりと頭をあげ、微笑んだ。
「これからもどうかその力で、傷付いた者達を癒していってあげてください……」
「…もちろんです!!」
ユノンの言葉に、チェムリットは腕に力を込め、強く頷いた。
「……さあ、では…」
ダズは二人に近付き、王国へ帰還すべく、護衛を務めんと前へ出た。
「我々も婚儀へと移りましょうか」
「そうですね………って、はぁっ!!?」
相変わらずその移動は、とても肉眼で追えるものではない。
リィンがいつの間にかダズの横に現れ、その手を握っていた。
「こ、婚儀って…!まだ受けるなんて一言も言ってないですよ!ていうかいつ横にきた!?油断もスキもなさすぎる…!」
「おや?約束したではありませんか。ちゃんと白馬(ダチョウ)で迎えにきたわけですし」
「あ、あれはリィンさんが一人で勝手に言い残していったんじゃないですか!!」
ダズは後退りし、リィンから距離を離そうとする。
「おっと、逃がしませんよ?この音速を持って、全力で捕まえてみせます」
「クッ…!」
ダンッ!
ダズは勢いよく地を蹴り、その場から駆け出した。
彼女もスピードに自信はあった。
いかにリィンが速いと言えど、(バフォメットの力を借りて)全力を出せば結果はわからないはずだ。
ゴオッ!
と、思っていられたのはほんの数秒である。
「いっ!?」
「その力があれば何とかなると思いましたか?」
ダズと平走するように移動するリィン。
いとも簡単に追い付かれたことと、彼の執念の深さに驚きを隠せない。
「捕まえ…た!」
ダンッ!
「うわぁっ!?」
ゴロゴロゴロ!
あろうことかリィンはダズに飛び掛かり、その身を掴みながら二人で地面を転がる。
とても一国の王族とは思えないアグレッシブさがあった。
「さあ、行きましょう。我が妻よ」
「ちょ、ちょっと…!離してください!」
リィンはダズの上に跨がり、両手を押さえ付ける。
そしてじたばたともがくダズの元に、人が集まり始める。
「おいおい……真っ昼間から何やってんだ…?」
「タ…タイタンッ!!?」
1番見られたくない人物に見られたことの羞恥心から、ダズを頬を赤く染める。
「おーいお姉ちゃ……うわっ…」
「あらあらうふふ」
現れたマツリと菫吏も、それぞれの反応を示す。
「こ、これは違うの!」
ドォンッ!
ダズは凄まじい力でリィンを突き飛ばし、立ち上がった。
「わぁ……吹っ飛んだよ王子様……」
「吹っ飛びましたねえ……」
「……ったく…」
哀愁漂う視線を送るマツリと菫吏、呆れるタイタン。
タイタンはダズに近付き、真剣な眼差しを向けた。
「ダズ」
「は、はい!」
何故か敬語で返すダズ。
姿勢を正し、タイタンに向き直った。
「お前は、どうするんだ?」
「………ん……」
その言葉に俯き、彼女は考える。
リィンのことは決して嫌いではない。
しかし、あの性格とはいえ、一国の王子である。
生半可な決断はできない。それこそ人生最大の分かれ道と言えよう。
まだまだ騎士としてやりたいこともある。
世界はもっと見たいもので沢山溢れている。
「ごめん……ちょっと、考えさせて」
いかにずるい答えであろうとも、それが今の彼女にとって、出せる最高の答えだったのかもしれない。
寝転んだまま帽子を手で押さえるリィンに、ユノンは手を差し延べた。
「おぉ…美しきユノン=N=ローウェル。あなたの手を握れることに私は至高の喜びを感じます」
「……全く、相変わらずですね。貴方は…」
手を掴んだユノンは、腕に力を込めてリィンを引き上げた。
「しかし、相手はなかなか揺るがない精神をお持ちですよ。諦めることも考えたほうが良いのでは…?」
リィンは服についた土を掃い、ゆっくり顔をあげた。
「いいえ、諦めませんよ」
「………おや、珍しく本気ですね」
リィンのハッキリした返しに、ユノンは一瞬面食らったようだ。
「それほどまでして、ダズリングを求める理由は?」
「……………」
彼女にはわからなかった。
リィンの執着心の理由が。
彼ほどの権力の持ち主なら、望みを満たすような女性はいくらでもいるはずであろうに。
しかし、リィンは意外にもあっさりと口を開いた。
「さあ……何ででしょうねえ?」
「……ご自身でも理解し得ないことだと?」
「そうですね。ですが、先にも言った通り、私は諦めませんよ。そして……」
リィンは目を細め、一人の人物をその瞳に収めた。
「絶対に、私の妻になってもらいましょう」
そこには、仲間に囲まれ、恥ずかしくも楽しげな表情を浮かべる、ダズの姿があった。
三国戦争編 完
チェムリットは淋しげな表情を浮かべ、タローを見た。
「あぁ、もう我の力も必要ないだろう。ダズリング、チェムリット、ユノンよ。そなた達には一度世話になった恩義があるのでな。これで全て返せた」
「ありがとうございます。タローさん」
「助力に大変感謝しております。砂漠の主よ」
その賢狼に、二人は頭を下げた。
「気にするな。我等はこれからも砂漠で静かに生きていく。何か助けが必要なときは再び砂漠へ来るといい」
タローはそう言い残し、彼女達の元から駆け出し、姿を消していった。
チェムリットは彼が見えなくなるまで、ずっと手を振り続けた。
「治癒の風、チェムリット。此度は貴女の魔法にも助けられましたね……何人の者が命を救われたことか。感謝してもしきれない程です」
ユノンは身分も忘れ、チェムリットに深々と頭を下げた。
その様子に彼女は慌て、両手を前で大きく振った。
「そ、そんな!頭をあげてくださいユノン様…!私はこの職業として当然の、できることをやっただけです…」
ユノンはゆっくりと頭をあげ、微笑んだ。
「これからもどうかその力で、傷付いた者達を癒していってあげてください……」
「…もちろんです!!」
ユノンの言葉に、チェムリットは腕に力を込め、強く頷いた。
「……さあ、では…」
ダズは二人に近付き、王国へ帰還すべく、護衛を務めんと前へ出た。
「我々も婚儀へと移りましょうか」
「そうですね………って、はぁっ!!?」
相変わらずその移動は、とても肉眼で追えるものではない。
リィンがいつの間にかダズの横に現れ、その手を握っていた。
「こ、婚儀って…!まだ受けるなんて一言も言ってないですよ!ていうかいつ横にきた!?油断もスキもなさすぎる…!」
「おや?約束したではありませんか。ちゃんと白馬(ダチョウ)で迎えにきたわけですし」
「あ、あれはリィンさんが一人で勝手に言い残していったんじゃないですか!!」
ダズは後退りし、リィンから距離を離そうとする。
「おっと、逃がしませんよ?この音速を持って、全力で捕まえてみせます」
「クッ…!」
ダンッ!
ダズは勢いよく地を蹴り、その場から駆け出した。
彼女もスピードに自信はあった。
いかにリィンが速いと言えど、(バフォメットの力を借りて)全力を出せば結果はわからないはずだ。
ゴオッ!
と、思っていられたのはほんの数秒である。
「いっ!?」
「その力があれば何とかなると思いましたか?」
ダズと平走するように移動するリィン。
いとも簡単に追い付かれたことと、彼の執念の深さに驚きを隠せない。
「捕まえ…た!」
ダンッ!
「うわぁっ!?」
ゴロゴロゴロ!
あろうことかリィンはダズに飛び掛かり、その身を掴みながら二人で地面を転がる。
とても一国の王族とは思えないアグレッシブさがあった。
「さあ、行きましょう。我が妻よ」
「ちょ、ちょっと…!離してください!」
リィンはダズの上に跨がり、両手を押さえ付ける。
そしてじたばたともがくダズの元に、人が集まり始める。
「おいおい……真っ昼間から何やってんだ…?」
「タ…タイタンッ!!?」
1番見られたくない人物に見られたことの羞恥心から、ダズを頬を赤く染める。
「おーいお姉ちゃ……うわっ…」
「あらあらうふふ」
現れたマツリと菫吏も、それぞれの反応を示す。
「こ、これは違うの!」
ドォンッ!
ダズは凄まじい力でリィンを突き飛ばし、立ち上がった。
「わぁ……吹っ飛んだよ王子様……」
「吹っ飛びましたねえ……」
「……ったく…」
哀愁漂う視線を送るマツリと菫吏、呆れるタイタン。
タイタンはダズに近付き、真剣な眼差しを向けた。
「ダズ」
「は、はい!」
何故か敬語で返すダズ。
姿勢を正し、タイタンに向き直った。
「お前は、どうするんだ?」
「………ん……」
その言葉に俯き、彼女は考える。
リィンのことは決して嫌いではない。
しかし、あの性格とはいえ、一国の王子である。
生半可な決断はできない。それこそ人生最大の分かれ道と言えよう。
まだまだ騎士としてやりたいこともある。
世界はもっと見たいもので沢山溢れている。
「ごめん……ちょっと、考えさせて」
いかにずるい答えであろうとも、それが今の彼女にとって、出せる最高の答えだったのかもしれない。
寝転んだまま帽子を手で押さえるリィンに、ユノンは手を差し延べた。
「おぉ…美しきユノン=N=ローウェル。あなたの手を握れることに私は至高の喜びを感じます」
「……全く、相変わらずですね。貴方は…」
手を掴んだユノンは、腕に力を込めてリィンを引き上げた。
「しかし、相手はなかなか揺るがない精神をお持ちですよ。諦めることも考えたほうが良いのでは…?」
リィンは服についた土を掃い、ゆっくり顔をあげた。
「いいえ、諦めませんよ」
「………おや、珍しく本気ですね」
リィンのハッキリした返しに、ユノンは一瞬面食らったようだ。
「それほどまでして、ダズリングを求める理由は?」
「……………」
彼女にはわからなかった。
リィンの執着心の理由が。
彼ほどの権力の持ち主なら、望みを満たすような女性はいくらでもいるはずであろうに。
しかし、リィンは意外にもあっさりと口を開いた。
「さあ……何ででしょうねえ?」
「……ご自身でも理解し得ないことだと?」
「そうですね。ですが、先にも言った通り、私は諦めませんよ。そして……」
リィンは目を細め、一人の人物をその瞳に収めた。
「絶対に、私の妻になってもらいましょう」
そこには、仲間に囲まれ、恥ずかしくも楽しげな表情を浮かべる、ダズの姿があった。
三国戦争編 完
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