コンロン地下闘技場編2
第一試合開始。
続きは小説です。
続きは小説です。
「……本当に行くつもりなのですか?」
女性は小さな溜め息をつき、机に肘をつく腕をせわしなく動かす。
「はい。うちが子供達を何とかしたらなあかんのです!」
対面に立つ女性は、その机に両手を付き、必死に説得を試みているようだ。
「確かに……王国からの援助が無い今、子供達を預かり続けるのは難しいでしょうね。しかし、あなたが危険な目にあうことになるんですよ?」
「そんなの関係ありません!それに、その賞金があれば教室をまた開ける……一生の生活に困らないだけの額が手に入るんです!」
ここはゲフェンタワー魔法教室。
現在は資金難のため教室は閉鎖しているが、戦争やモンスターのせいで親を亡くした子供達を引き取り、孤児院としての活動を続けている。
「それに、知ってるんですようちは。"マザー"が以前にその大会に出たことがあるのを。更に優勝までしたことを!」
「落ち着きなさい、"東雲春"。私が出ていたから何だと言うのです。今回も同じように賞金を手に入れられるとは限らないんですよ?」
椅子に座る女性の名は"マザー=マリサ"。
ゲフェンタワー魔法教室の学長にして、孤児院の管理人である。
対する女性の名は"東雲 春"。
その魔法教室に残った唯一の教師であり、彼女も過去に身寄りがなくなったところをマリサに拾われ、育てられたのだ。
春はコンロンの裏で開かれると言われる"地下闘技場大会"にて優勝賞金を手に入れ、教室の復興と孤児院の維持費を賄おうとしていた。
先の発言の通り、マリサは以前にこの大会に出場、そして優勝し、魔法教室を開いた経緯がある。
どこでその話を聞き付けたのか、春はマリサと同じ道を辿ろうとしていた。
「大丈夫です。マザー譲りの強力な魔法を使って、必ず優勝してみせます!」
春は拳を握りしめ、真っ直ぐな視線をマリサに向けた。
マリサは再び小さな溜め息をつき、ゆっくりと口を開いた。
「………わかりました。あなたがそこまで言うのなら、止めません。しかし、必ず五体満足で帰って来ること。お金が無くとも、子供達にはあなたが必要なのです……」
春は孤児院の子供達に"春先生"と呼ばれ、慕われている。
いくら相手を殺すことが許されない大会であろうとも、大怪我をしては本末転倒なのだから。
「まっかせて下さい!じゃあ、うちは出発の準備をしてきます。あ、子供達には内緒にしてくださいね!」
「……言える訳がないじゃないですか。とにかく、危なくなったらすぐに降参することを忘れるんじゃ…」
「いってきまーす!!」
春はマリサの言葉が言い終わらないうちに階段を駆け降り、ゲフェンタワーを飛び出していった。
残されたマリサは複雑な表情でそれを見送り、もう一度溜め息をついた。
「………一つ、手を打っておきますか……」
自分の娘のような存在が危険な場に出ることに不安を感じ、マリサは一つの"策"を張ることを決意する。
それが何であるかは、彼女自身しか知らない。
知り得ないことである。
『では第一回戦!!"便利屋"ファルシオン対"美しき女教師"東雲春の試合を始めます!!』
ファルシオンと春は闘技場の真ん中で睨み合い、試合開始の合図を待っていた。
「おい、あんちゃん!怪我したくなかったら棄権してもええんやで?」
春は挑発するようにファルシオンに言葉を投げる。
「……………」
しかし、ファルシオンは無言のまま、それに答えようとも、反応しようともしない。
「なんやあれ…シカトかい。それとも余裕の表れか?」
春は舌打ちし、それ以上の言葉をかけようとは思わなかった。
やがて、試合開始の合図となるドラの前に、大きなバチを持った男が待機する。
神咲はそれを確認すると、再びマイクを口元に近づけた。
『コンロン地下闘技場大会第一試合……開始イイィィッッ!!』
ジャアアアァーンッ!!
巨大なドラが叩かれ、試合が開始された。
バッ!
直ぐさま春は杖を前に構え、詠唱を開始した。
「初っ端からデカいのいくで!!クリムゾンロックッ!!」
ゴオオォッ!
春の杖から、凄まじい火球が放たれ、相手に襲い掛かる。
しかし、それでもファルシオンは動かない。
ドゴオォンッ!!
魔法は直撃し、大きな爆発をあげる。
『おぉっと!春選手の魔法が決まったー!!これでは流石の便利屋も一たまりもないかぁッ!?』
『いえ、直撃はしていないようですね』
『えっ?』
神咲の実況に、アヘンは横から言葉を付け足す。
(アイツ…!)
春は心の中で叫んだ。
(直前で炎をいなしよった…!)
そう、魔法の直撃した手応えはなかった。
煙が晴れ、やがてファルシオンが姿を現す。
『む、無傷!?ファルシオン選手!全くダメージを受けていないようです!!』
そこには、最初と変わらず悠然と立つ便利屋の姿があった。
「まだまだ…!攻撃は終わっとらんで!!」
バチッ!
春の杖に稲妻が走り、それを打ち放つ。
「チェーンライトニングッ!!」
ビシャアアァンッ!!
地を走る稲妻の光が春から放たれ、ファルシオンを襲う。
連鎖的にダメージを与えるこのスキルは、その軌道から避けることはまず不可能である。
一撃目を回避したとて、二撃、三撃目が相手に襲い掛かる。
それに対し、ファルシオンは片手を前に、一つの"魔法"を詠唱した。
「"マジックロッド"」
パァンッ!
「なっ…!?」
春はそれを見、理解した。
チェーンライトニングの光は、ファルシオンの前にした手で打ち消され、吸収されていく。
『な、なんということでしょう!彼は魔法使いの類なのか!?春選手の魔法が打ち消されています!!』
『なるほど、先程のクリムゾンロックを防いだのも納得がいきますね』
(どういうことや……セージ系列の職業なんか…?)
ファルシオンの使用したスキルはセージ系列のみが扱える"マジックロッド"。
ターゲッティング魔法を吸収し、己の魔力へと変換するスキルである。
つまり、先程放った二つの魔法のようなスキルは通用しないことになる。
「それならこっちも手はあるで!!」
バッ!
春は直ぐさま後ろに跳び、闘技場の隅から魔法を詠唱した。
「アースストレインッ!!」
ドゴゴゴゴゴゴッ!!
闘技場の地面が盛り上がり、鋭い岩盤がファルシオンに向かい、襲い掛かる。
『春選手凄まじい魔法の押収だ!!今度ばかりはファルシオン選手も危ういかァッ!?』
『あの範囲では逃げ場がないですね』
観客席から実況席まで揺らすほどの威力に、二人は驚きを隠せない。
対する便利屋、
「……対策を付けたか。正しい選択だ」
その男、ファルシオンはここにきて初めて口を開いた。
そして、
スゥッ
(な、なんや…!?)
両腕を高く上げ、構えを取った。
その腕には何も握られていない。
しかし、それは明らかに剣術における"上段の構え"。
「ハアアアアアァァッ!!」
ブォンッ!
ファルシオンは掛け声と共に、その腕を縦に真っ直ぐ振り下ろした。
ドゴオオオォォンッ!!
すると、まるで"剣をたたき付けたような"衝撃が巻き起こり、春のアースストレインと激突し、それを相殺した。
「あれは……ボーリングバッシュ…?」
「あぁ、あの衝撃は間違いないな」
観客席でそれを見たダズは、覚えのある技に我が目を疑った。
ジルも同様の心情だろう。
「ど、どういうことや…!?魔法の上に騎士のスキルなんて…ありえへん!!」
春がそう思うのも当然だろう。
それでは先程使ったマジックロッドの証明ができないのだから。
スッ
ファルシオンは構えを解き、春を見た。
「……俺の能力、その名を教えてやろう」
睨む春は、戦慄した。
「"千才一遇/スペシャリスト"だ。俺は全ての職の中から、それぞれ一つの技を扱うことができる。覚えておくがいい」
それは、千の才能に恵まれ、一つの遭遇を果たした者の力。
「……それを言うなら、"千載一遇"やろ……」
春は額に汗をかき、これから起こるであろう戦いに奮えを隠せなかった。
女性は小さな溜め息をつき、机に肘をつく腕をせわしなく動かす。
「はい。うちが子供達を何とかしたらなあかんのです!」
対面に立つ女性は、その机に両手を付き、必死に説得を試みているようだ。
「確かに……王国からの援助が無い今、子供達を預かり続けるのは難しいでしょうね。しかし、あなたが危険な目にあうことになるんですよ?」
「そんなの関係ありません!それに、その賞金があれば教室をまた開ける……一生の生活に困らないだけの額が手に入るんです!」
ここはゲフェンタワー魔法教室。
現在は資金難のため教室は閉鎖しているが、戦争やモンスターのせいで親を亡くした子供達を引き取り、孤児院としての活動を続けている。
「それに、知ってるんですようちは。"マザー"が以前にその大会に出たことがあるのを。更に優勝までしたことを!」
「落ち着きなさい、"東雲春"。私が出ていたから何だと言うのです。今回も同じように賞金を手に入れられるとは限らないんですよ?」
椅子に座る女性の名は"マザー=マリサ"。
ゲフェンタワー魔法教室の学長にして、孤児院の管理人である。
対する女性の名は"東雲 春"。
その魔法教室に残った唯一の教師であり、彼女も過去に身寄りがなくなったところをマリサに拾われ、育てられたのだ。
春はコンロンの裏で開かれると言われる"地下闘技場大会"にて優勝賞金を手に入れ、教室の復興と孤児院の維持費を賄おうとしていた。
先の発言の通り、マリサは以前にこの大会に出場、そして優勝し、魔法教室を開いた経緯がある。
どこでその話を聞き付けたのか、春はマリサと同じ道を辿ろうとしていた。
「大丈夫です。マザー譲りの強力な魔法を使って、必ず優勝してみせます!」
春は拳を握りしめ、真っ直ぐな視線をマリサに向けた。
マリサは再び小さな溜め息をつき、ゆっくりと口を開いた。
「………わかりました。あなたがそこまで言うのなら、止めません。しかし、必ず五体満足で帰って来ること。お金が無くとも、子供達にはあなたが必要なのです……」
春は孤児院の子供達に"春先生"と呼ばれ、慕われている。
いくら相手を殺すことが許されない大会であろうとも、大怪我をしては本末転倒なのだから。
「まっかせて下さい!じゃあ、うちは出発の準備をしてきます。あ、子供達には内緒にしてくださいね!」
「……言える訳がないじゃないですか。とにかく、危なくなったらすぐに降参することを忘れるんじゃ…」
「いってきまーす!!」
春はマリサの言葉が言い終わらないうちに階段を駆け降り、ゲフェンタワーを飛び出していった。
残されたマリサは複雑な表情でそれを見送り、もう一度溜め息をついた。
「………一つ、手を打っておきますか……」
自分の娘のような存在が危険な場に出ることに不安を感じ、マリサは一つの"策"を張ることを決意する。
それが何であるかは、彼女自身しか知らない。
知り得ないことである。
『では第一回戦!!"便利屋"ファルシオン対"美しき女教師"東雲春の試合を始めます!!』
ファルシオンと春は闘技場の真ん中で睨み合い、試合開始の合図を待っていた。
「おい、あんちゃん!怪我したくなかったら棄権してもええんやで?」
春は挑発するようにファルシオンに言葉を投げる。
「……………」
しかし、ファルシオンは無言のまま、それに答えようとも、反応しようともしない。
「なんやあれ…シカトかい。それとも余裕の表れか?」
春は舌打ちし、それ以上の言葉をかけようとは思わなかった。
やがて、試合開始の合図となるドラの前に、大きなバチを持った男が待機する。
神咲はそれを確認すると、再びマイクを口元に近づけた。
『コンロン地下闘技場大会第一試合……開始イイィィッッ!!』
ジャアアアァーンッ!!
巨大なドラが叩かれ、試合が開始された。
バッ!
直ぐさま春は杖を前に構え、詠唱を開始した。
「初っ端からデカいのいくで!!クリムゾンロックッ!!」
ゴオオォッ!
春の杖から、凄まじい火球が放たれ、相手に襲い掛かる。
しかし、それでもファルシオンは動かない。
ドゴオォンッ!!
魔法は直撃し、大きな爆発をあげる。
『おぉっと!春選手の魔法が決まったー!!これでは流石の便利屋も一たまりもないかぁッ!?』
『いえ、直撃はしていないようですね』
『えっ?』
神咲の実況に、アヘンは横から言葉を付け足す。
(アイツ…!)
春は心の中で叫んだ。
(直前で炎をいなしよった…!)
そう、魔法の直撃した手応えはなかった。
煙が晴れ、やがてファルシオンが姿を現す。
『む、無傷!?ファルシオン選手!全くダメージを受けていないようです!!』
そこには、最初と変わらず悠然と立つ便利屋の姿があった。
「まだまだ…!攻撃は終わっとらんで!!」
バチッ!
春の杖に稲妻が走り、それを打ち放つ。
「チェーンライトニングッ!!」
ビシャアアァンッ!!
地を走る稲妻の光が春から放たれ、ファルシオンを襲う。
連鎖的にダメージを与えるこのスキルは、その軌道から避けることはまず不可能である。
一撃目を回避したとて、二撃、三撃目が相手に襲い掛かる。
それに対し、ファルシオンは片手を前に、一つの"魔法"を詠唱した。
「"マジックロッド"」
パァンッ!
「なっ…!?」
春はそれを見、理解した。
チェーンライトニングの光は、ファルシオンの前にした手で打ち消され、吸収されていく。
『な、なんということでしょう!彼は魔法使いの類なのか!?春選手の魔法が打ち消されています!!』
『なるほど、先程のクリムゾンロックを防いだのも納得がいきますね』
(どういうことや……セージ系列の職業なんか…?)
ファルシオンの使用したスキルはセージ系列のみが扱える"マジックロッド"。
ターゲッティング魔法を吸収し、己の魔力へと変換するスキルである。
つまり、先程放った二つの魔法のようなスキルは通用しないことになる。
「それならこっちも手はあるで!!」
バッ!
春は直ぐさま後ろに跳び、闘技場の隅から魔法を詠唱した。
「アースストレインッ!!」
ドゴゴゴゴゴゴッ!!
闘技場の地面が盛り上がり、鋭い岩盤がファルシオンに向かい、襲い掛かる。
『春選手凄まじい魔法の押収だ!!今度ばかりはファルシオン選手も危ういかァッ!?』
『あの範囲では逃げ場がないですね』
観客席から実況席まで揺らすほどの威力に、二人は驚きを隠せない。
対する便利屋、
「……対策を付けたか。正しい選択だ」
その男、ファルシオンはここにきて初めて口を開いた。
そして、
スゥッ
(な、なんや…!?)
両腕を高く上げ、構えを取った。
その腕には何も握られていない。
しかし、それは明らかに剣術における"上段の構え"。
「ハアアアアアァァッ!!」
ブォンッ!
ファルシオンは掛け声と共に、その腕を縦に真っ直ぐ振り下ろした。
ドゴオオオォォンッ!!
すると、まるで"剣をたたき付けたような"衝撃が巻き起こり、春のアースストレインと激突し、それを相殺した。
「あれは……ボーリングバッシュ…?」
「あぁ、あの衝撃は間違いないな」
観客席でそれを見たダズは、覚えのある技に我が目を疑った。
ジルも同様の心情だろう。
「ど、どういうことや…!?魔法の上に騎士のスキルなんて…ありえへん!!」
春がそう思うのも当然だろう。
それでは先程使ったマジックロッドの証明ができないのだから。
スッ
ファルシオンは構えを解き、春を見た。
「……俺の能力、その名を教えてやろう」
睨む春は、戦慄した。
「"千才一遇/スペシャリスト"だ。俺は全ての職の中から、それぞれ一つの技を扱うことができる。覚えておくがいい」
それは、千の才能に恵まれ、一つの遭遇を果たした者の力。
「……それを言うなら、"千載一遇"やろ……」
春は額に汗をかき、これから起こるであろう戦いに奮えを隠せなかった。
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