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コンロン地下闘技場編7

これマサオさんが龍でよかったんじゃねって思った。


続きは小説です。



マサオはその腕も使い地を蹴った。

スピードは両足のみの場合より増し、凄まじい速度でケビンへ詰め寄る。


その姿は、まさに"虎"。


「双龍脚ッ!!」


ドドンッ!!


そのスピードを維持したままケビンへと飛び掛かり、二本の足を体ごと回転させ、ぶつける。


ケビンはそれを何とか両腕でガードするが、体勢を崩された。

マサオはそのスキを見逃さない。


「大纏崩捶ッ!!」


ドゴォッ!


懐に潜り込み、肩から先の腕を全て使い、ケビンを宙へと浮かせる。


「グッ…!」


攻撃を受け流せる体を持つケビンとは言え、先程のように宙に浮かされては、その技の効果も鈍る。


更にマサオは拳に力を集中し、深く構えを作った。


「羅刹…破凰撃ィッ!!」


ドガガガガガガッ!!


空中にいるケビンに向かい、至近距離から拳の連打をお見舞いする。


ドガァンッ!


その威力に、ケビンは受け身を取ることすら出来ず、壁にたたき付けられた。


攻撃は確かなダメージとなり、ケビンの体を鋭い痛みが駆け巡る。

そう、寸前で体を柔軟に動かし、攻撃を流すことの出来るケビンだが、"動かない壁"にたたき付けられるように使われては、その力を全くと言っていいほど活かすことはできない。

それは彼女の弱点であり、マサオは短時間の間にその能力を看破したと言えよう。



ダンッ!


『マサオ選手!更にケビン選手に追撃をしようとしています!!』


『ケビン選手は壁に追い込まれては、能力の真価を発揮できませんからねえ』


マサオはケビンからの反撃を考慮し、その射程距離ギリギリの場所まで近付き、様子を伺った。



しかし、


ブオッ!


「なっ!?」


ケビンは剣を振り下ろし、反撃した。


この程度で相手がダウンするとは、マサオも微塵も油断していなかった。

それを抜きにしたとして、ケビンの攻撃の射程があまりにも"長すぎる"ことに違和感を覚えた。

バッ!


マサオは直ぐさま後退し、再び構える。


「い、いったぁ…!やるなマサオ氏…!今度はワシの番だ!」


ドッ!


壁から抜け出し、剣を"片手"で横薙ぎに振る。


「うおっ…!?」


それはマサオの頭上をかすめるように通りすぎ、数本の髪を宙に舞わせる。



バチンッ!


(……っ!?)


その音に、マサオは違和感を覚えた。

まるでゴムを伸縮させ、何かにぶち当てたような音に。


「ふぅんっ!」


次にケビンは上段から剣を振り下ろす。

またしても、"片手"で。


ズドォンッ!


「くっ…!」


マサオはそれを完全に避けきることができず、前面に押し出した豊満な胸部、それにしっかりと巻かれたサラシに傷をつけられる。


バチィンッ!


再び構えを取るケビンから鳴る、不自然な音の正体を、その状況からマサオは理解した。



「……お前、関節外してるのか…?」



不気味な程に長いリーチ。
人間は両手で武器を振るより、片手で振るほうが自然とリーチは長くなる。

それを考慮したとして、眼前に迫る攻撃のリーチは、マサオの予想に大きく反して"長すぎる"のだ。



「おぉ…やっぱりバレたかぁ。ワシは全身のよく使う関節を自由につけはずしできるんだ!」


余りにも出鱈目な身体能力、そしてその秘密をあっさりと明かしてしまうケビンに、マサオは半ば呆れ、そして笑みを浮かべた。



「とんだ化け物体質だなぁ……でも、何だか私はお前が好きになってきたよ」


「え、えぇ!?ワ、ワシ同性はちょっと…!」


「違う違う!何勘違いしてんだ?!」


マサオは慌てて両手を振り、否定する。

ここでの意味ならば、それはラブではなくライクなのだろう。


「ワシもマサオ氏のこと嫌いじゃないけど…!で、でも同性はやっぱりダメじゃろ!!」


ダンッ!


勘違いを貫き通し、ケビンはマサオに向けて突進する。


「スパイラル…ピアァースッ!!」


ゴオォッ!


(やっぱりっ…!)


マサオ上半身を後ろにそり、その突きを回避する。

真っ直ぐ伸ばされた腕と剣の長さは尋常ではなく、避けるのが精一杯だった。


だが、そこで終わるわけにはいかない。


ガシッ!


「それなら…こいつはどうだぁっ!!」


グルンッ!


「うおぉっ!?」


マサオはその腕にしがみつき、重力に任せて体を回転させると同時に、ケビンを地面にたたき付けるべく彼女の体ごと回転させた。

頭から地に落ち、脳震盪すら生温い衝撃がケビンを襲うであろう。



ズサッ!


「うっ…!?」


それはマサオの考えの甘さからきたのだろう。


ケビンは頭が地に着く直前に、"片手"をつき、落下の勢いを殺したのだ。


「だあぁッ!!」


ドゴォッ!


「お…ぐっ…!」


直後、二本の足を勢いよく突き出したドロップキックがマサオの腹部に直撃する。


ガァンッ!


マサオの体は後方へ吹き飛び、壁へとたたき付けられた。


(く…そっ!相手の力を……甘く見て、た…!)


そう、ケビンは決して軽くはない武器を片手で振り回し、自由に扱うほどである。

自分の体だけではなく、マサオの体ごと支えるだけの"腕力"を持ち合わせていても不思議ではないのだ。


「マサオ氏!この攻撃で…最後だぁッ!!」


ダンッ!


ケビンは再び後方の壁へ跳び、それを勢いよく蹴り飛ばし、相手に向けて滑空突撃する。


ガラッ


対するマサオは、迫り来るケビンを前にし、"笑った"。



「……潜龍……昇天ッ!!」


ゴオォッ!


マサオは気弾を周囲に展開させると同時に、爆裂波動状態へとなった。


ヒュンッ!


そして、残影により高速で移動し、ケビンの初撃を回避する。


後ろへと回り込んだマサオは、再び地に両手をつき、構えを取る。


「やるならやってみろマサオ氏!爆気散弾を!!」


ダンッ!


マサオを煽り、先程と同様に壁を蹴り、彼女の移動した反対方向へと空中を加速する。




「爆気は……もう使わない…!」


クルッ!


「えっ!?」


その行動は対峙するケビンすら予想だにしないものだった。



『な、なんとマサオ選手!相手に背を向けたぁッ!?』


『…何を考えているんでしょうね。敵前逃亡とは、彼女の性格に似つかわしくないですね……』


神咲とアヘンも、その時は気付くはずもないことだろう。



ドォンッ!


マサオは残影の勢いをそのままに壁に突撃し、四本の手足を使い、次の壁へと跳ね返る。

闘技場の壁に穴が空くほどの勢いに、ケビンすら驚きを隠せない。


しかし、それは彼女にとって目印にもなろう。

いくら残影の速度が目で追えないとは言え、マサオがどこに跳んだのかはハッキリとわかるのだから。



「逃げるのかぁ!?マサオ氏ッ!!」


ケビンは怒りの表情を顕に、マサオの"足跡"を追う。


そう、彼女自身、その時点まで気付くことはなかった。





「……誰が…逃げるだって!?」


ガシッ!


「なっ…!後ろ!?」



自分がマサオに、"追われる側の立場"だったということに。


マサオは空中でケビンの首を後ろから掴み、拘束した。



「阿修羅アアアァァッ!!」



恐らく、その場にいた、その状況を見ていた全ての者が騙されただろう。


マサオは残影と己の両手足の力を最大限に使い、ケビンのスピードを越え、後方から迫っていたのだ。


逃げるのではなく、追うことで。



「覇王オォォ拳ンンンーーッ!!」


ズガアアアアァァンッ!!


マサオの全力を振り絞った拳に、ケビンは凄まじい勢いで地にたたき付けられ、まるで地面をバウンドするかのように浮き上がり、動かなくなった。



「……私の……勝ち…だ……」



だが、マサオのその言葉も虚しく、



ダアアァンッ!


彼女の体は空中で止まることはなく、その勢いのまま壁に激突し、自身も阿修羅覇王拳により力を使い果たし、気絶した。





『…な……なんということでしょう……大会始まって以来のことではないでしょうか…?』


『……これは、さすがに予想ができませんでした』


両者、共に立ち上がらず、会場には静かな空気が流れ始めた。


『ケビン=コスギvsマサオの試合は……両者再起不能により…引き分けですッ!!』


ワアアアアアアァァッ!!


その声と共に、観客は歓声をあげ、素晴らしき戦いを見せた二人に声援を送り続けた。




戦いを終えた二人の表情はどこか満足げに見え、いかにそれが充実したものであったかを示すようだった。
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