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コンロン地下闘技場編12

戦闘前の小休止。
無理矢理感が否めない。
でもユノンちゃんとサツキさんの絡み書いてて楽しかった。


続きは小説です。



闘技場は変わり果てた姿をそこにさらしていた。

観客席はところどころが陥没し、人が歩くのも困難なほどに、何より真上にあいた地上へと繋がる大きな空洞が、これ以上の試合が不可能であることを告げているようだった。


この闘技場は裏の世界。
表に情報が漏れれば、賭け事などの非合法的なこの場を、国は止めざるを得ない。


観客の半数以上が退去した状態で、実況と解説、その他の運営が集まり、大会の中止を決定しようとしていた。



「これ以上の試合は困難ですね……すぐにでも大会を中止すべきでしょう」


アヘンが重い口を開くように、それを告げた。


「アヘンさんの言う通りです。では、大会中止のアナウンスを流しますので…」


神咲がそれに続き、マイクを手にした。


誰もそれに異論を唱えようとはしない。
続けようものなら己の身に危険が伴い、命を賭けてまで試合を見たいとも、賭けに参加したいとも思わないのだろう。

地上に逃げ、戻って来なかった大勢の観客達のことを考えれば当然である。



ザッ!


その時、アヘンや神咲達の後ろに、一人の女が現れた。



「よう。その決定ちょっと待っちゃくれねえか?」



アヘンはその女を知っていた。


「サツキか……ここは関係者以外立入禁止だぞ」


「まあそう言うなって。あんた等、国にここの存在がバレるのが怖いんだよな?」


突然現れた有名人と、核心をつくその言葉に、皆が口を閉じ、下を向いて黙す。


沈黙を最初に破ったのは神咲だった。


「……確かに、国に知られては問題です。今後の開催は非常に難しくなるでしょう。しかし、今ならまだ間に合う。だからこそ今回は大会を中止に…」


「だよなぁ?賭け事が行われてる、しかも人と人を戦わせるような危険な遊びなんだからな」


サツキの煽るような言葉に、アヘンが苛立ちながら口を開いた。


「何が言いたいんだ、サツキ?まさか、この事実を隠蔽しながら大会を続ける方法があるとでも言うのか?」


アヘンのその言葉を待っていたかのように、サツキは不気味な笑みを浮かべた。


「……へへ、まあ、"そのまさか"ってところかね」



バサッ!



「……その紙切れが何だって言う……んっ!?」


サツキが突き出した一枚の紙を前に、アヘンの顔色がみるみる変わっていく。


バッ!


アヘンはそれを引っ手繰るようにサツキから奪い、食い入るように羅列された文を目で追う。



「"コンロン地下闘技場大会を、下記の条件の元に開催することを許可する"…!?お、おい!プロンテラの…あの三国同盟の"ローウェル最高責任者"の印が押されているじゃないか!!」


「え…えぇ!?」


アヘンの言葉に、神咲は耳を疑った。


ルーンミッドガッツ、シュバルツバルド、アルナベルツの国々によって結ばれた三国同盟。

その最高責任者であるユノン=N=ローウェルのサインと印が、確かにそこに刻まれていた。


今、最も警戒すべき、国からの規制がここで解かれたことを意味している。


「お、お前…こんな許しを一体どうやって!?」


かつて三国戦争において大きな功績を残したと言われるサツキ。

だが、それだけのことで国から黙認されるようなものではないはずである。


サツキは不敵に唇を釣り上げ、笑った。


「理由は言えねえ。でも確かにそれは本物だぜ。これで大会は続けられるよな?」


その言葉に誰もがサツキを見、頷き返した。

思い出したように神咲が焦り始める。


「で、ですが大会は続けられるとしても、闘技場は最早荒地です。これを修繕するにはそれなりの時間がかかりますよ…?」


その問いも予測していたと言わんばかりに、サツキは即答する。


「その辺も手は打ってある。優秀なメカニックの相方がいるんでね」


それが瀬戸誠のことだと気付いたのは、恐らくアヘンだけだろう。


(あいつもこき使われて大変だな……)


更にサツキは続けた。


「再開のアナウンスやらは任せるぜ。あともう一つ…」


「…まだ何かあるのか?」


ニヤニヤと笑う彼女に、アヘンは訝しげな視線を向ける。



「新しい"ルール"を、というか対戦形式についてなんだがな…」



サツキの言葉に、その場にいる全員が聞き入っていた。

























大会数日前のルーンミッドガッツ王国、首都プロンテラ。

昼下がりの王城、謁見の間にて、サツキとユノンが向き合っていた。



「……な、何の真似ですか…?オーバージェネティック」


ユノンは言葉をつまらせるほどに動揺していた。


「いやいや、ちょーっとしたお願いごとをしにきただけなんですよ?そんなに警戒しなくても(笑)」


サツキは笑っている。

寧ろ、この人物が笑っている以外の表情を簡単に見せるとは思えない。


「……確かに、私(わたくし)はラヘルの宮殿爆破事件の真相を隠ぺいしました。どこでその情報を仕入れたかは聞きませんが、貴女程の方が私を脅してでもやりたい事があるのですか…?」


「ハハッ、脅すだなんてとんでもない。お願いだと言っているではありませんか」


ラヘルで起こった地下宮殿爆破事件。

それはプロンテラ所属のギルドマスター"タイタン"が、三国戦争時にラヘルへ潜入した際に起きた出来事。
彼が(誤って?)爆破した宮殿には、ユミルの心臓を使った特殊な装置があり、その被害は国一つ分とも言えるほど莫大なものである。
それが現在同盟を結んだラヘルへと知れれば、関係に亀裂が入る可能性すらある。

ユノンは何としてでもその事実を知られないようにする他に、選択肢がなかったのだ。

サツキはそれをネタに、ユノンを、三国同盟のトップに立つ者を揺すっていた。


「簡単なお願いです。ユノン様はコンロン地下闘技場の存在をご存知ですね?」


サツキの言った言葉に、ユノンは少しの間黙し、考えた末に口を開いた。


「……はい。実態は未だ調査中ですが、国としてはいずれ取り締まらなくてはならないと考えています。まさか……それを見逃せとでも?」


「さすがユノン様、話が早い。ですが、全て見て見ぬフリをする必要はありません。人と人が合法的に戦えるようなルールをつけて頂いて構いませんよ」


サツキの返しを受け、ユノンは顔をしかめた。


「……難しいお話です。既にあそこでは数々の裏取引が行われています。国として、王女として、それを無かったことにする訳には……」




ピラッ


その言葉が言い終わる前に、サツキはポケットから一枚の"写真"を取り出し、彼女に見せるようにした。


ユノンはその小さな写真を数秒見つめ、その後




「え…えええぇぇ!?えええぇぇっ!?そそそそ、そその写真を、どどどこで…!?」


ユノンは激しい動揺を隠し切れず、前のめりに問い掛ける。


ニヤァ


その様子を見、予想通りと言わんばかりに、オーバージェネティックは唇を釣り上げた。


「いやあ、可愛らしいですね。ユノン様にこういうご趣味があったとは思いませんでしたよ」


手にした写真。
そこには、赤い帽子に赤い服。白いアクセントが可愛さを強調した衣装。
クリスマス用に誂えられた"サンタ服"を着たユノンの姿が写されていた。


ユノンは首を激しく左右に振り、否定した。


「ち、ちち違うんです!!それはヒナノが私に無理矢理着せて…!」


「え?そうなんですか?"この写真を提供してくれた妹君"は、部屋から自分の衣装が無くなってると思ったらお姉ちゃんが勝手に着てた、と…」


「ヒナノオオオオオオオォォッッ!!」


ガタンッ!


ユノンは勢いよく玉座から立ち上がり、己が武器"グランドクロス"を手に駆け出そうとした。


しかし、



「おっと、通せませんね。提供者から"お姉ちゃんからのお仕置きが無い事を条件に"これを借りてますので」


サツキは彼女の前に立ち、行く手を阻んだ。


「くっ…!」


「おっ…闘りますか?あなたとも"一度手合わせしたいと思っていた"ので丁度いい」


構えたユノンに、サツキは嬉しそうに言葉をかける。

武器を持つ手が震えるユノンは唇を噛み締めた。


「……貴女と戦うには、国一つの軍を持って挑まなくてはならないでしょう……それは避けなくてはなりません…!」


自問自答するように、ユノンはついに観念した。


「…い、いいでしょう!ですが…厳しい制約を付けさせて頂きますからね!」


「よっしゃ!ありがとうございます!」


「あとその写真は捨ててえええええええぇぇ!!」




城全体に響き渡る程のユノンの叫び声に、警護についていたジルやネオまで現れたが、何事も無かったように切り替える姿を見、サツキは心の底から驚いたという。




その後写真の提供者、ユノンの実の妹"ヒナノ=N=ローウェル"がどうなったかは定かではない。


「姉が何かしてきたら連絡をくれ。それ相応の対応をする」

というサツキの恐ろしい言伝が残されており、それがまだ実行に移されていないところを見れば、お仕置きは免れたのだとは思うが。



















ユノンの書いた許可証には、運営そのものに対する規制が追加で設けられていた。

選手の勝敗を予想した賭け、博打行為の禁止。
これにより、純粋に戦いを楽しむ者達が集まるだろう。

また、行われている数々の裏取引については、今回に限りジルに目を光らせて監視させるという。
人類最強を前にしてコソコソと動こうものなら、直ぐさまその鉄槌が下る。


闘技のルールに大きな変化は見られない。
相手を殺してはならず、参ったと言わせれば勝ち。
しかし、過度な闘技場の破壊行為は禁止するとして、アニキと、何故かジルも一緒に厳重注意を受けていた。



そして、対戦形式は一新された。


まず、トーナメント表の見直し。
謎の魔法使い"ぶち"の放ったコメットにより、観客以外にも、負傷して試合の続行が不可能になった選手が多数いた。

よって、対戦表は一度白紙に。
負けた者でも、希望により再びトーナメントに復活できるようになった。


サツキの希望はここで組み込まれた。
会場内にいる希望者から参加を募り、それらを全て含めた対戦を2on2の"タッグマッチ"で行うというもの。

選手全員に投票を行ったところ、過半数以上の賛成は得られたが、一人だけ猛反対していた者がいた。



「どうして妾(わらわ)が誰かとタッグなんて組まなくてはなりませんの!?」


ファルシオンとの試合を前にしてのルール変更に、涼風涼はひたすら異論を唱えていた。


「あーわかったわかった。お前らだけ先にやれよ」


サツキのこの一言で、次の試合はファルシオンvs涼風涼に決定する。


次に問題となるのは、ペアの決め方。
最早エキシビションマッチになり兼ねないというほどのメンバーの参戦が決まったため、基本的にはそれぞれの意思でペアを決めることができるようにされた。


すぐに決まったペアは、


サツキ&瀬戸誠

ジル&ダズ

そして、サツキにより強制参加を強いられた、神咲&アヘン



「え、私やジルさんまで出るんですか?」


「運営からそう言われたのでな。ユノン様の意向でもあるらしいから、私はほぼ強制だよ」


戦えることに若干の嬉しさを顔に出し、ダズとジルは選手控室へと向かった。



「サツキにまんまと乗せられましたね……まあ、頑張りましょう。神咲さん」


「うう…私は戦闘に不向きなんですがね。アヘンさんがそう仰るなら仕方ありません」


諦めた顔を浮かべながら、神咲とアヘンも移動を開始する。



彼等の参戦により、他の選手達は言い知れない戦慄を覚える。
三国戦争の英雄と戦えるかもしれないという、未だかつてない興奮と共に。
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