コンロン地下闘技場編16
一回戦開始。
最初からなかなか楽しくなってきた。
続きは小説です。
誠は後悔していた。
それは、目の前で無惨に粉砕された己の武器、嵐斧ハリケーンフューリーを見たからだけではない。
最早、一人の思惑に乗せられてこの大会に出たこと自体に後悔するように、深く、根強く彼の心に深く突き刺さっていた。
もう一度言い直そう。
瀬戸誠は、激しく後悔していた。
『お集まりの皆さん!お待たせ致しました!これよりコンロン地下闘技場タッグバトルを開始します!!』
ワアアアアアアアアアアアアアッッ!!
神咲の言葉と共に、会場はあり得ない程の熱気に包まれた。
当の神咲は実況席にはいない。
彼が立つのは闘技場の中心。
そう、彼はこのタッグバトルに参加し、記念すべき第一試合で戦う選手の一人となっていた。
『では、選手の紹介です!!』
ザッ!
神咲が腕を伸ばした方角から、二人の人物が姿を現した。
『まずは世界でも有数の若きメカニック!その機械技術の横に出る者はいない!!まさに鋼に愛されし男!!瀬戸誠オオオオオォッ!!』
観客が声援を送る中、誠は無言で一歩前に歩み出た。
『そして!世界にその名を知らぬ者は最早いない!!最強にして最凶の製薬師!!オーバージェネティック!サツキイイイイィィッ!!』
サツキはまるで慣れていることのように、平然と前に出た。
それもそのはずだろう。
名が知れ渡れば、自然とこういう扱いになるのだから。
「おい、わかってんなマコ。いくらお前の"斧の師匠"っつったって、ビビるこたぁねえぞ」
「そうだね…」
「自慢のショットガンだってあるんだ。型に捕われる必要なんて微塵もねえ」
「…そうだね……」
この誠の返しに苛立ちを覚えたサツキは、直ぐさま彼のほうを見た。
しかし、
「………お、おい、マコ…?」
「………そ、そうだね……」
会話が成立していない。
誠の顔を見たサツキは面食らった。
彼は顔面蒼白、その上、体を震わせ、極度の緊張状態にあったのだから。
(……だ、だめだこいつ……早くなんとか………っ!)
なんとか緊張を解すべく会話をしようとしたサツキだったが、前方から凄まじい闘気を感じ、前に向き直った。
ワアアアアアアアアァァッッ!!
観客が一際声援を送る者。
『さあ!この人は我等が闘技場の実況でありながら、自身も高い戦闘能力を持つ男!!伝説の斧使いにして"動かない石像"と名高い!!アヘエエエェェンッ!!』
その気配に、サツキは戦慄した。
戦う様子を直に見たことはない。
だが、発せられるオーラは三国戦争の英雄達と同等に近い。
役者は揃った。
四人が対戦位置につき、運営委員が開始のドラの位置へ移動する。
「くそっ!俺がなんとかするしかねえのか…!」
震える誠を後ろに、サツキは一歩前に出た。
『この素晴らしいメンバーに、僭越ながら私も加えさせていただきます!では、開始準備が整ったようです!会場の皆様!是非カウントをお願いします!!』
神咲はその言葉と共に、マイクを放り投げた。
触れられることはなかったが、彼の職業はローグ系の上位職"シャドウチェイサー"。
タイタンと同じではあるが、彼は能力が特殊過ぎるため、あまり参考にはならない。
本来は相手の装備の解除、スキル発動の抑制といった妨害に長けている職である。
アヘンが攻撃、神咲が妨害、と考えればバランスの良い組み合わせだ。
3!!
観客のカウントダウンが始まった。
サツキはもう一度誠を見る。
2!!
だが、目の焦点が定まっていない。
心なしか先程より震えが強くなっているように見える。
サツキは呆れたように前に向き直った。
1!!
(一人を除いた)四人が睨み合い、臨戦体制を取る。
「「!?」」
その時、アヘンと神咲は突然の動きに眉をひそめた。
サツキが、前屈みに両手を地に付け、まるで今から短距離走でも走るかの如く体勢をとったのだから。
言わずもがな、その狙いは明らかである。
ジャアアアアアァァンッ!!
開始のドラが叩かれた。
「よーい……ドンッ!」
ボッ!
次の瞬間、サツキは勢いよく地を蹴り、凄まじい加速でスタートを切った。
足と手の力を同時に使ったその速さで、相手との距離を一気に詰める。
「近付かせては不利ですね…!動きを止めさせてもらいます!!」
バッ!
先に動き出したのは神咲だった。
掌を前に出し、妨害スキルを発動する。
ポワアァンッ
サツキの進行方向に青く光る穴、マンホールが仕掛けられ、その動きを封じる。
「しゃらくせぇ!!」
ドォンッ!
しかし、サツキは直ぐさま地面を殴りつけ、腕を地面に埋めるように急停止した。
「ダアアアラアアアアァッ!!」
ボゴォッ!
「え、えぇ!?」
サツキは地面の岩盤を持ち上げ、マンホールごとその周囲に巨大な穴をあける。
あまりに桁外れた力技に、技を放った神咲は呆然とする。
「神咲さん!下がって下さい!!」
迫り来る闘技場の地面であった巨大な岩盤を前に、アヘンは斧を構える。
「ヌウウゥンッ!!」
ドゴオァッ!!
アヘンの持つギガントアックスが唸りをあげ、岩盤を粉砕する。
バッ!
土煙をあげ、砕かれた岩盤は囮でしかない。
その煙の中からはサツキぐ現れ、拳を振りかぶる。
「オラアァッ!!」
ガアアアァンッ!!
振り下ろされたその一撃を、アヘンは手にした斧を横向きに構え、ガードした。
ズザザッ!
衝撃により、数歩分後退しながらも、アヘンはその力を完全に受け止めた。
「へっ!やるなぁ。だが…!」
「…っ!!」
不敵に笑うサツキを前に、アヘンは警戒する。
これはタッグマッチ。
サツキの後ろには、斧を構えた誠が既に距離を詰めていた。
「…………マコ…?」
筈だった。
いつもなら繰り出されるはずの連携が来ない。
不審に思い、サツキはチラリと後ろを見た。
「……あっ!わ、悪い!サツキ!」
「お、おまっ!?」
そこには、呆然と佇み、サツキの言葉で我に返る誠の姿があった。
「…なるほど、無理矢理にでもお前が突っ込んできたのはそのためか。ならば!」
ドガァッ!
「グッ…!」
アヘンが腕を伸ばし、サツキの頭を掴み、地面に叩きつけた。
その強靭な力の前に、サツキは地に伏せ、まるで踏み台にされるように上を跨がれた。
アヘンはサツキを置き、慌てふためく誠に向かい一直線に突撃した。
「てめえ!待ちやが…!」
「いいえ、あなたには止まってもらいます」
それを追いかけるべく起きあがろうとしたサツキを、神咲がそうはさせない。
「マスカレイド/グルーミーッ!!」
「うおっ…!?」
ズゥンッ!
神咲のスキル発動と共に、サツキの体は不思議な感覚に包まれた。
それは言い知れぬ不快感を含む、憂鬱な感情の連鎖。
グルーミーはサツキの動きを強力に縛り付け、移動速度を低下させる。
「あなたに好き勝手暴れられては困るんですよ。オーバージェネティック」
「くっ…そぉ!」
神咲に動きを縛られつつ、サツキはアヘンに襲われる誠を見た。
ガァンッ!ドゴォッ!
「どうした誠!そんな事ではいつまで経っても俺は倒せないぞ!!」
そこでは、巨大な斧を自在に振り回し、逃げる誠を追い詰めるアヘンの姿をがあった。
「く、くぅ…!」
ガギイイィンッ!
避けられない位置で振り下ろされた斧の一撃を、誠は手にした嵐斧で受け止める。
ゴオオオオォォッ!!
その動きだけで、まるで嵐の前兆であるかのように、鋭い風が吹きすさぶ。
それが嵐斧と言われ、一振りで対するものを灰塵へと帰す、ハリケーンフューリーの能力である。
「その斧があったとて…お前が使いこなせれば意味がない!!」
ガァンッ!
「うわっ!?」
アヘンは言葉と共に、誠の嵐斧を弾き、スキを見せた誠の体に鋭い蹴りをお見舞いする。
ドゴォッ!
何とかそれを片腕でガードし、誠は数歩後ろへ下がった。
(…くそ……くそっ!動け!僕の体…!)
誠は自分を叱咤し、何とかいつもの調子を取り戻そうとする。
しかし、緊張が今も抜けない。
斧を持つ手は震え、思い通りに操れない。
(僕は……勝てるのか…!?この人に…!)
己が師を前に、誠は苦悩する。
「マコオオオオオオオォォッッ!!」
会場に轟くほどの怒声で、サツキが叫ぶ。
「!?」
「……………」
その覇気に、誠本人のみならず、神咲とアヘンも動きを止める。
「今までやってきたことを忘れたか!!」
ズンッ!
サツキはグルーミーにかかった重い足を無理矢理動かし、神咲へと近づいていった。
その様子に畏怖を感じ、直ぐさま妨害スキルを発動する。
「シ、シャドウフォームッ!!」
神咲の体が黒い光に包まれ、伸びた線が誠の体と繋がる。
それは自分が受けるはずのダメージを他者へと流す妨害スキル。
つまり、神咲にダメージを与えようとすれば、そっくりそのまま誠へと流れるようになる。
神咲は迫り来る神の怪力を前に、これを使わざるを得なかった。
だが、目の前の人物は予想の斜め上の行動に出る。
「目が覚めねえなら……覚ましてやるよッ!!」
ドゴオオォッ!!
サツキは問答無用で神咲に拳を叩きつけた。
「お…ぐっ…!」
勿論、悶絶するのは誠である。
神咲とアヘンは、起こったことが理解出来ず、唖然としていた。
ズゥンッ!
誠はあまりの衝撃に片膝をつき、手にした嵐斧を床に落とす。
サツキは誠の傍へゆっくりと近付き、嵐斧の前で立ち止まる。
「…こんなオモチャに頼ってるようじゃな……」
スッ
誠は今、サツキが何をしようとしているか瞬時に理解出来た。
何故なら彼女は、斧の前で片足を上げ、
「勝てるもんも勝てねえんだよッ!!」
グジャアッ!!
それを、押し潰さんとしていたのだから。
「……………」
誠は口を大きく開け、呆然とその様子を見た。
目の前にあるのは、無惨にも砕かれた自分の嵐斧。
最早修復出来るかもあやしい程に、それは原型を留めていなかった。
誠は後悔した。
ザッ!
「………そうだね……」
彼は立ち上がった。
体に走る痛みに耐え、尚力強く。
「へっ、わかってんじゃねえ…かっ!?」
ドゴォッ!!
次の瞬間、不敵に笑うサツキの腹部に、低い姿勢から真っ直ぐ放たれた誠の拳が襲い掛かる。
ドガアアァンッ!
サツキは壁に激突し、瓦礫の中に埋もれる。
「え…?え?」
「……アイツ等らしいな、不器用なところが……」
神咲は仲間同士で吹き飛び合う様を見、唖然としていた。
アヘンは小さな笑みを浮かべ、誠を見た。
彼の手の震えは治まっており、その全身から力強いオーラを放つ。
ガシャンッ!
「ありがとう、サツキ。おかげで目が覚めた」
誠は腕にロボットの腕、ショットガンを装着し、真っ直ぐに前を見る。
ガラッ
「………そりゃどうも……」
瓦礫の中からサツキが声を出す。
言い知れない感覚に包まれているが、ここでツッコミを入れる気はないのだろう。
サツキはゆっくり立ち上がり、再び臨戦体勢に入る。
「さあ、反撃の時間だぜ」
「そうだね」
誠の言葉に、一切の迷いはなかった。
最初からなかなか楽しくなってきた。
続きは小説です。
誠は後悔していた。
それは、目の前で無惨に粉砕された己の武器、嵐斧ハリケーンフューリーを見たからだけではない。
最早、一人の思惑に乗せられてこの大会に出たこと自体に後悔するように、深く、根強く彼の心に深く突き刺さっていた。
もう一度言い直そう。
瀬戸誠は、激しく後悔していた。
『お集まりの皆さん!お待たせ致しました!これよりコンロン地下闘技場タッグバトルを開始します!!』
ワアアアアアアアアアアアアアッッ!!
神咲の言葉と共に、会場はあり得ない程の熱気に包まれた。
当の神咲は実況席にはいない。
彼が立つのは闘技場の中心。
そう、彼はこのタッグバトルに参加し、記念すべき第一試合で戦う選手の一人となっていた。
『では、選手の紹介です!!』
ザッ!
神咲が腕を伸ばした方角から、二人の人物が姿を現した。
『まずは世界でも有数の若きメカニック!その機械技術の横に出る者はいない!!まさに鋼に愛されし男!!瀬戸誠オオオオオォッ!!』
観客が声援を送る中、誠は無言で一歩前に歩み出た。
『そして!世界にその名を知らぬ者は最早いない!!最強にして最凶の製薬師!!オーバージェネティック!サツキイイイイィィッ!!』
サツキはまるで慣れていることのように、平然と前に出た。
それもそのはずだろう。
名が知れ渡れば、自然とこういう扱いになるのだから。
「おい、わかってんなマコ。いくらお前の"斧の師匠"っつったって、ビビるこたぁねえぞ」
「そうだね…」
「自慢のショットガンだってあるんだ。型に捕われる必要なんて微塵もねえ」
「…そうだね……」
この誠の返しに苛立ちを覚えたサツキは、直ぐさま彼のほうを見た。
しかし、
「………お、おい、マコ…?」
「………そ、そうだね……」
会話が成立していない。
誠の顔を見たサツキは面食らった。
彼は顔面蒼白、その上、体を震わせ、極度の緊張状態にあったのだから。
(……だ、だめだこいつ……早くなんとか………っ!)
なんとか緊張を解すべく会話をしようとしたサツキだったが、前方から凄まじい闘気を感じ、前に向き直った。
ワアアアアアアアアァァッッ!!
観客が一際声援を送る者。
『さあ!この人は我等が闘技場の実況でありながら、自身も高い戦闘能力を持つ男!!伝説の斧使いにして"動かない石像"と名高い!!アヘエエエェェンッ!!』
その気配に、サツキは戦慄した。
戦う様子を直に見たことはない。
だが、発せられるオーラは三国戦争の英雄達と同等に近い。
役者は揃った。
四人が対戦位置につき、運営委員が開始のドラの位置へ移動する。
「くそっ!俺がなんとかするしかねえのか…!」
震える誠を後ろに、サツキは一歩前に出た。
『この素晴らしいメンバーに、僭越ながら私も加えさせていただきます!では、開始準備が整ったようです!会場の皆様!是非カウントをお願いします!!』
神咲はその言葉と共に、マイクを放り投げた。
触れられることはなかったが、彼の職業はローグ系の上位職"シャドウチェイサー"。
タイタンと同じではあるが、彼は能力が特殊過ぎるため、あまり参考にはならない。
本来は相手の装備の解除、スキル発動の抑制といった妨害に長けている職である。
アヘンが攻撃、神咲が妨害、と考えればバランスの良い組み合わせだ。
3!!
観客のカウントダウンが始まった。
サツキはもう一度誠を見る。
2!!
だが、目の焦点が定まっていない。
心なしか先程より震えが強くなっているように見える。
サツキは呆れたように前に向き直った。
1!!
(一人を除いた)四人が睨み合い、臨戦体制を取る。
「「!?」」
その時、アヘンと神咲は突然の動きに眉をひそめた。
サツキが、前屈みに両手を地に付け、まるで今から短距離走でも走るかの如く体勢をとったのだから。
言わずもがな、その狙いは明らかである。
ジャアアアアアァァンッ!!
開始のドラが叩かれた。
「よーい……ドンッ!」
ボッ!
次の瞬間、サツキは勢いよく地を蹴り、凄まじい加速でスタートを切った。
足と手の力を同時に使ったその速さで、相手との距離を一気に詰める。
「近付かせては不利ですね…!動きを止めさせてもらいます!!」
バッ!
先に動き出したのは神咲だった。
掌を前に出し、妨害スキルを発動する。
ポワアァンッ
サツキの進行方向に青く光る穴、マンホールが仕掛けられ、その動きを封じる。
「しゃらくせぇ!!」
ドォンッ!
しかし、サツキは直ぐさま地面を殴りつけ、腕を地面に埋めるように急停止した。
「ダアアアラアアアアァッ!!」
ボゴォッ!
「え、えぇ!?」
サツキは地面の岩盤を持ち上げ、マンホールごとその周囲に巨大な穴をあける。
あまりに桁外れた力技に、技を放った神咲は呆然とする。
「神咲さん!下がって下さい!!」
迫り来る闘技場の地面であった巨大な岩盤を前に、アヘンは斧を構える。
「ヌウウゥンッ!!」
ドゴオァッ!!
アヘンの持つギガントアックスが唸りをあげ、岩盤を粉砕する。
バッ!
土煙をあげ、砕かれた岩盤は囮でしかない。
その煙の中からはサツキぐ現れ、拳を振りかぶる。
「オラアァッ!!」
ガアアアァンッ!!
振り下ろされたその一撃を、アヘンは手にした斧を横向きに構え、ガードした。
ズザザッ!
衝撃により、数歩分後退しながらも、アヘンはその力を完全に受け止めた。
「へっ!やるなぁ。だが…!」
「…っ!!」
不敵に笑うサツキを前に、アヘンは警戒する。
これはタッグマッチ。
サツキの後ろには、斧を構えた誠が既に距離を詰めていた。
「…………マコ…?」
筈だった。
いつもなら繰り出されるはずの連携が来ない。
不審に思い、サツキはチラリと後ろを見た。
「……あっ!わ、悪い!サツキ!」
「お、おまっ!?」
そこには、呆然と佇み、サツキの言葉で我に返る誠の姿があった。
「…なるほど、無理矢理にでもお前が突っ込んできたのはそのためか。ならば!」
ドガァッ!
「グッ…!」
アヘンが腕を伸ばし、サツキの頭を掴み、地面に叩きつけた。
その強靭な力の前に、サツキは地に伏せ、まるで踏み台にされるように上を跨がれた。
アヘンはサツキを置き、慌てふためく誠に向かい一直線に突撃した。
「てめえ!待ちやが…!」
「いいえ、あなたには止まってもらいます」
それを追いかけるべく起きあがろうとしたサツキを、神咲がそうはさせない。
「マスカレイド/グルーミーッ!!」
「うおっ…!?」
ズゥンッ!
神咲のスキル発動と共に、サツキの体は不思議な感覚に包まれた。
それは言い知れぬ不快感を含む、憂鬱な感情の連鎖。
グルーミーはサツキの動きを強力に縛り付け、移動速度を低下させる。
「あなたに好き勝手暴れられては困るんですよ。オーバージェネティック」
「くっ…そぉ!」
神咲に動きを縛られつつ、サツキはアヘンに襲われる誠を見た。
ガァンッ!ドゴォッ!
「どうした誠!そんな事ではいつまで経っても俺は倒せないぞ!!」
そこでは、巨大な斧を自在に振り回し、逃げる誠を追い詰めるアヘンの姿をがあった。
「く、くぅ…!」
ガギイイィンッ!
避けられない位置で振り下ろされた斧の一撃を、誠は手にした嵐斧で受け止める。
ゴオオオオォォッ!!
その動きだけで、まるで嵐の前兆であるかのように、鋭い風が吹きすさぶ。
それが嵐斧と言われ、一振りで対するものを灰塵へと帰す、ハリケーンフューリーの能力である。
「その斧があったとて…お前が使いこなせれば意味がない!!」
ガァンッ!
「うわっ!?」
アヘンは言葉と共に、誠の嵐斧を弾き、スキを見せた誠の体に鋭い蹴りをお見舞いする。
ドゴォッ!
何とかそれを片腕でガードし、誠は数歩後ろへ下がった。
(…くそ……くそっ!動け!僕の体…!)
誠は自分を叱咤し、何とかいつもの調子を取り戻そうとする。
しかし、緊張が今も抜けない。
斧を持つ手は震え、思い通りに操れない。
(僕は……勝てるのか…!?この人に…!)
己が師を前に、誠は苦悩する。
「マコオオオオオオオォォッッ!!」
会場に轟くほどの怒声で、サツキが叫ぶ。
「!?」
「……………」
その覇気に、誠本人のみならず、神咲とアヘンも動きを止める。
「今までやってきたことを忘れたか!!」
ズンッ!
サツキはグルーミーにかかった重い足を無理矢理動かし、神咲へと近づいていった。
その様子に畏怖を感じ、直ぐさま妨害スキルを発動する。
「シ、シャドウフォームッ!!」
神咲の体が黒い光に包まれ、伸びた線が誠の体と繋がる。
それは自分が受けるはずのダメージを他者へと流す妨害スキル。
つまり、神咲にダメージを与えようとすれば、そっくりそのまま誠へと流れるようになる。
神咲は迫り来る神の怪力を前に、これを使わざるを得なかった。
だが、目の前の人物は予想の斜め上の行動に出る。
「目が覚めねえなら……覚ましてやるよッ!!」
ドゴオオォッ!!
サツキは問答無用で神咲に拳を叩きつけた。
「お…ぐっ…!」
勿論、悶絶するのは誠である。
神咲とアヘンは、起こったことが理解出来ず、唖然としていた。
ズゥンッ!
誠はあまりの衝撃に片膝をつき、手にした嵐斧を床に落とす。
サツキは誠の傍へゆっくりと近付き、嵐斧の前で立ち止まる。
「…こんなオモチャに頼ってるようじゃな……」
スッ
誠は今、サツキが何をしようとしているか瞬時に理解出来た。
何故なら彼女は、斧の前で片足を上げ、
「勝てるもんも勝てねえんだよッ!!」
グジャアッ!!
それを、押し潰さんとしていたのだから。
「……………」
誠は口を大きく開け、呆然とその様子を見た。
目の前にあるのは、無惨にも砕かれた自分の嵐斧。
最早修復出来るかもあやしい程に、それは原型を留めていなかった。
誠は後悔した。
ザッ!
「………そうだね……」
彼は立ち上がった。
体に走る痛みに耐え、尚力強く。
「へっ、わかってんじゃねえ…かっ!?」
ドゴォッ!!
次の瞬間、不敵に笑うサツキの腹部に、低い姿勢から真っ直ぐ放たれた誠の拳が襲い掛かる。
ドガアアァンッ!
サツキは壁に激突し、瓦礫の中に埋もれる。
「え…?え?」
「……アイツ等らしいな、不器用なところが……」
神咲は仲間同士で吹き飛び合う様を見、唖然としていた。
アヘンは小さな笑みを浮かべ、誠を見た。
彼の手の震えは治まっており、その全身から力強いオーラを放つ。
ガシャンッ!
「ありがとう、サツキ。おかげで目が覚めた」
誠は腕にロボットの腕、ショットガンを装着し、真っ直ぐに前を見る。
ガラッ
「………そりゃどうも……」
瓦礫の中からサツキが声を出す。
言い知れない感覚に包まれているが、ここでツッコミを入れる気はないのだろう。
サツキはゆっくり立ち上がり、再び臨戦体勢に入る。
「さあ、反撃の時間だぜ」
「そうだね」
誠の言葉に、一切の迷いはなかった。
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