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コンロン地下闘技場編18

タッグマッチ第一試合終了です。

残りは三試合かなぁ…。



続きは小説です。



ザッ!


神咲は少しずつこちらへ歩みを進めてくる。

そのプレッシャーの前に、二人はたじろぐ。


サツキは覚悟を決め、口を開いた。


「……マコ。少しでいい、神咲の足を止めてくれ」


ビキッ!


周囲の大気が震え、サツキは"戦闘神モード"へと移行した。
構えを取り、迫る神咲を鋭い眼光で睨みつける。

その威圧感を前に、神咲も歩みを止めた。


「……なるほど、それを封じることは出来ないんですね。だが、時間制限がある力を使ってよいのですか?」


「ハンッ!余計なお世話だぜ」


神咲の言う通り、戦闘神モードは体にかける負担が大きい。

サツキもそう長くは保たないだろう。



「頼むぜマコ……俺が、絶対………」


グッ!


拳を握り締め、踏み込むべき足に力を込める。



「アヘンを倒す!!」


ダンッ!


サツキが持てる最大の力を持って地を蹴り、凄まじい加速で飛び出した。


ゴオオオッ!


周囲に突風を吹き荒らすほどのスタートを前に、神咲は"道を譲った"。


「面白い……ならば見届けましょう!あなたがアヘンさんを何処まで止められるのかを!」


そこには、アヘンが負けるはずが無いという、絶対の自信が込められていた。


決してサツキの力を甘く見ている訳では無い。

それが、アヘンの望みでもあるかというように。



「来い!!サツキイイィッ!!」


ユラッ


対するアヘンも、動かない石像モードへと移行する。



バッ!


神咲は手にした短剣で、誠へと斬りかかる。


「瀬戸誠!あなたも実に興味深い人材だ!今後の実況の参考にさせていただきますよ!!」


キィンッ!


誠は右腕の機械でその斬撃を受け止める。


「人を三下みたいに扱うのは……やめて欲しいなッ!!」


誠もまた、彼等の戦いの中で心を突き動かされていたのだろう。


彼は溜まった鬱憤を晴らすかの如く、闘争心に火をつけ、戦闘を楽しむが故の笑みを浮かべざるを得なかった。














「……相変わらず真っ直ぐな二人ですね……どうなると思いますかジルさん?」


選手控室を抜け、闘技場へと繋がるゲートから戦いを見ていたダズは、横にいるジルへと言葉を投げた。


ジルは真剣な眼差しを向け、少しの間を置き、口を開いた。



「あの馬鹿力は何なんだ一体……三年前私の前に現れたのがお前で良かったと心底思えてくるぞ」


「いや、そういう感想はいらないです………」


ジルはサツキの動きを見、半ば呆れ気味の意見を漏らした。

そして再び表情を戻し、言葉を続ける。



「……あのアヘンとかいう男も相当な使い手だがな。一つ弱点を挙げるとすれば……」


「やはりジルさんも気付いていましたか」


ジルの言葉に、ダズはまるで確認するかのように頷いた。



「……あぁ、弱点というには乏しいが、あれは動きを封じられるような"連続攻撃に対する耐性が低い"と考えられるな」


"動かない石像モードの弱点"と呼べるもの。

それは、カウンターであるが故に、攻撃を受け流した際に、"攻撃をした相手自身にスキが生まれなくてはならない"ということ。

つまり、相手が体勢を崩さずに連続的な攻撃を仕掛けてきた場合、カウンターに移ることが出来ないのだ。


「踏み込むことに最適な力を配分して、雷帝の如しスピードで走るというあの動きも、一瞬のタメを要するだろうからな」


「………うーん。でも、それって難しいですよねぇ」


ジルの説明に、ダズは顔をしかめた。


「だって、サツキさん自分の拳だけで相手を捻り潰すタイプだから、アヘンさんとの相性最悪じゃないですか」


「うむ……その辺りは、瀬戸誠の出番なんだがな。あの神咲とかいう実況がそうはさせないのだろう」


そう、サツキに拳を用いた近距離格闘以外などの概念は、この戦いにおいて存在しない。

それが故に、神咲にいいように阻まれてしまうのだろう。


もし、誠がアヘンと対峙していた場合、または誠とサツキが同時にアヘンを襲う事が出来れば、それは違う結果になったのかもしれない。



「…もし、だ……」


「……?」


ジルが一瞬の間を置き、再び口を開いた。



「もし、あのオーバージェネティックが………"遠距離もしくは中距離からの間接的な攻撃を使う事ができれば"……」


その言葉に、ダズは首を傾げた。


「いや、サツキさんに限ってそんな遠回りなことは……」


まるで有り得ない想像であるかというように、彼女は否定的だった。


しかし、それを任意に放つ事が出来たとすれば、サツキはとてつもない力を得る事となるだろう。
あの力を最大限に活かすのが近距離格闘戦と言えど、攻撃の幅が広がる事になるのだから。

まさに鬼に金棒。
現在の金棒役である誠が動けない以上、彼女自身が道を切り開かなくてはならない。












ダンッ!


サツキは跳躍し、スピードを維持したまま左腕を振りかぶり、アヘンに突進した。


「ッラアアアアァッ!!」


ゴオォッ!


凄まじい力で振り下ろされたその拳が、アヘンに襲い掛かる。



(馬鹿の一つ覚えか……そんなものが…!)


ガキィンッ!


金属音と共に、その攻撃は弾き返される。

アヘンは直ぐさま次の移動をするべく、地に着く足に力を込めた。
相手は攻撃を弾かれ、体勢を崩している筈なのだから。




「……なっ…!?」



しかし、その考えは否定される。


確かに、攻撃は弾き返したはずである。

だが、"サツキの動きが止まっていない"のだ。


スキが出来るどころの話ではない。
全く体勢を崩さぬまま、こちらに突進してきている。



意表を突き、相手が一瞬判断が遅れたことで、サツキはその懐へ潜り込むことに成功する。


ガシッ!


「……捕まえたぜ」


ニヤッ


サツキは笑った。

掴んだのは、アヘンの手にするギガントアックス。


「お、お前…!?」


アヘンは驚愕した。
まるで有り得ないものを見たかのように。



そう、目にしたのはサツキの"腕"。


そこに在るはずの、"手首から先が無い"のだ。



バキャアッ!


サツキの右手が、ギガントアクスの刃を握り潰す。
いかにその握力が人間離れしているかが窺える。


フォオオッ!


アヘンの下段から、凄まじい勢いのボディーブローが迫る。

それはサツキの左腕。
鋼鉄でできた"手首から先のない腕"である。


(ま、まずい…!!)


アヘンはその一瞬の間に、少しでも距離を取ろうと考えた。


それは、動かない石像でも、雷帝でもない。


"単純な回避行動"である。


だが、それで避けられるほど、容易なものではない。

人外の力と渡り合うには、それと同等の人外なる能力が必要なのだから。




「アアアアアアアァァッッ!!」


ドゴオォッ!!


「がっ!ハッ…!」


サツキの手首が、アヘンの腹部にめり込む。
戦闘神モードとなったサツキの一撃は、相手が地に足を着く力すら失わせる。

更に、


「…生憎なぁ、俺の"キャノンはカートには着いてねえんだよ"……」


キイイイィィンッ!!


そこにいる誰もが目を疑った。


アヘンを撃ち抜いたサツキの左腕、その手首に"光が収束している"。



「ま、まさ…かっ…!!」


体勢を崩し、サツキに前のめりにもたれ掛かるようになっていたアヘンは、自分の腹部に輝く光を見、驚愕した。



「アアアァァムズッ…!!」



それは、見まごうはずもない。



手首の外れた先が、"キャノン砲の発射口となっていた"のだから。




「キャノオオオオオオオォォンッッ!!」



ドッゴオオオオオオオオオォォンッッ!!


凄まじい爆音と共に、サツキの腕から"アームズキャノン"が放たれた。

それは光弾を放つようにアヘンの体を吹き飛ばす。



ドガアアアアアァァンッ!!


闘技場の壁まで吹き飛ばされたアヘンは、そこに叩きつけられると同時に爆発し、その周囲をいとも簡単に陥没させていった。




ゴロゴロゴロッ


サツキはその反動から後方に転がり、地面に倒れた。


「だー!!アッチィッ!何だこの熱量は!?」


プシュウウウウッ!


その熱さから、ジタバタ藻掻くサツキの腕から白い煙があがり、砲撃を放った左腕を冷却していく。





「な、なんと……アヘンさんが…?というか……腕からキャノン砲…?」


神咲は目を見開き、驚きを隠せなかった。

だが、どこか落ち着いた、まるで少なからず予想ができていたかのような、焦りの無い静かな雰囲気を表に出していた。



ガチャッ!


その後頭部に、誠のショットガンの銃口が密着する。


「終わりだ。僕達の……勝ちだ」


「……フッ……その通りですね」


サツキとアヘンが衝突する前からの時間、およそ"20数秒"。



「わかっているよ。もう"イグノアランスも切れた頃だろう?"」


誠はスキルの仕様を完全に理解していた。

マスカレードの効果時間は長くても20秒程。
つまり、誠は今再びショットガンを使う事ができる。



「……お見通しですか……完敗です」


神咲は両手を上に挙げ、降参を示した。



ドンッ!


神咲と誠の前に、"鋼鉄製の人間の手"が落下してきた。


「なるほど、彼女の腕を改造したのはあなたですか?」


そう、言わずもがな、それはサツキが取り外した自分の手である。


サツキはアヘンと衝突する直前に、これを投げつけ、ワザとアヘンの動きを拘束した。

それにより、動かない石像モードによる反撃を食らわず、連続攻撃に移ることが出来たのである。



「……コンビネーション技、と言えるでしょうかね。あなたの機械知識と、彼女の女神の力の……」


ザッ


神咲はそう言い残し、倒れるアヘンの下へ歩みを進めていった。


アヘンはサツキの砲撃を至近距離で受け、大事には至らないにしても、気を失っていた。



どこからともなく手にしたマイクを口に当て、神咲は大きく息を吸い込んだ。



『皆様!只今の試合、我々はこれ以上の戦闘が不可能と判断し、降参させていただきます!勝者であるサツキ&瀬戸誠のペアに、どうか温かい拍手をお願いします!!』


ワアアアアアアアアアアアアアッッ!!


神咲の言葉を皮切りに、観客達は声援を送り、大きな拍手で選手達を見送った。




サツキ&瀬戸誠 vs アヘン&神咲北斗の試合は、これにより幕を閉じた。
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