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コンロン地下闘技場編19

タッグマッチ2回戦開始!



続きは小説です。




ガチャガチャ


「あぁ……これでもないあれでもない……」


ケビンは焦っていた。

自分の持ち物をひっくり返し、何かを探している。


「おいおい、試合前に何やってんだケビン。そろそろ行くぞ」


その横で、ケビンの今回の相方であるマサオがそれを急かす。


「ま、待ってくれよマサオ氏ぃ!」


ケビンは慌ててそこらの持ち物を全て抱え、マサオの後を追った。



向かう先は、闘技場の中心である。












『お待たせいたしましたぁ!これより二回戦を開始します!!』


ザワザワ


神咲の実況に、会場内は思いの外静かに、そしてざわついていた。
先程の試合のような熱気に溢れているわけではない。


それもそのはずである。



「いやぁ、すごい人気ですね。ジルさん」


闘技場の中心に立つダズは、横にいる己がパートナー、ジルを見た。


「……それは嫌味にしか聞こえん」


ジルは訝しげな視線を向け、それに答える。


彼女はプロンテラの騎士。
本来ならこんな処にいる事自体、おかしな話なのだ。

観客が静かになるのも頷ける。


だが、殆どの者が期待の眼差しを向けていることに違いはない。

人類最強と言われた騎士の戦いが、目の前で観れるのだから。




『今回の対戦は大荒れ!なんと人類最強と名高い女騎士"ジル=フィザット"が参戦しているのだからッ!!龍に乗らなくてもその強さは底が知れません!!』


誰もが信じて疑わないのだろう。

彼女達の勝利を。














「あの威圧感は、さすがと言えるな……マサオ達が不憫に思えてくるよ」


観客席からその様子を見下ろす誠は、同情に満ちた表情を浮かべる。


だが、横にいたサツキは違った。



「……俺は大穴に賭けるぜ。"マサオが勝つ"ほうにな。あぁ、ケビンのことは知らねえぞ」


「おいおい……いくらマサオの腕がたつと言っても、武が悪過ぎじゃ……」


そう言いかけた誠の横に、一人の男が姿を現した。



「お前はマサオの何を見てきたんだ?」


「ア、アヘンさん!?もう動いて大丈夫なんですか…?」


動かない石像ことアヘンは、未だ包帯に巻かれた体を前に、誠の横に腰掛けた。


「へっ、お前も分かってんじゃねえか」


サツキはその様子を見て、動じない。
自分が与えたダメージとはいえ、その程度の傷で動けなくなるほど柔な体つきはしていないと、わかっていたのだろう。


「実況席には行かないんですか?」


誠は言葉をかける。
当然生まれてくる疑問だった。


「黙って医務室から抜け出してきたのでな。神咲さんにばれたら、また連れ戻され……」


そう言いかけたアヘンは、ふと実況席に目をやり、言葉に詰まった。


アヘンの見たものを追うように、二人も視線を動かし、理解した。



「……気付いてますね、あれ」


「食えねえ野郎だ……寧ろ注意すべきはアチラさんのほうだったかもな」


そこには、ニッコリと冷たい笑顔を浮かべる神咲の姿があった。

言うまでもない。
見ているのはアヘンのほうである。



誠とサツキは心の中で合掌し、冷や汗をかくアヘンに同情した。




だが、誠は最後まで分からなかった。


サツキやアヘンが、"マサオを高く評価する"、その理由が。
















『それだけではありません!人類最強の相方は、数年前に彼女を打ち倒したという三国戦争の英雄!!名をダズリング=ゴールドリップ!』


ザワザワ


会場内は再びざわめき始めた。

何せジルだけでは無く、ダズの噂も大きく広まっていたのだから。


しかし、それは大分曲解されていた。



「……お前も大変だな。あまりいい噂が立っているようには聞こえんぞ」


ジルは会場を見渡し、次にダズを見た。


「まあ、そうでしょうねえ……バフォメットと契約した時から、こんなことになるだろうとは薄々感じていましたよ」


ダズは寂しげな目で、それに答える。



世界を救った英雄の一人とはいえ、その体は半分が人間と敵対する"魔族"。

噂の中には、獣のような姿に変身し、大鎌で人々を襲っては喰らうというものまであった。


それが彼女の決めた道の、言わば副作用である。



強大な力を手にしたところで、反対に失うものもある。

等価交換とは、そういうものだ。



「ならば……覚悟を決めよう」


ザッ!


ジルは決意の表情を顕に、一歩前に出た。



「この戦い、お前の出番は無い。その手を煩わせずに全てを片付けてやる」


「……へえ、珍しくやる気ですね」


ジルの言葉に迷いは無かった。

あえて自分が一人で戦うことで、ダズへの注目を逸らそうと言うのだろう。


彼女なりの気遣いなのかもしれない。


「相変わらず不器用ですが、ね……」


「ん?何か言ったか?」


小さく呟いたダズは、振り向くジルに、否定の意味を込めて手を横に振り返した。




そして、彼女達の向く反対の入り口。

そこから、タッグとなって現れたマサオとケビンが入場した。




「ううぅ……緊張してきた……」


ケビンは震える手を何とか誤魔化す。

マサオはその様子を見、呆れ顔を浮かべた。


「上司だろうが何だろうが、関係ないだろ。思いっきりぶっ飛ばしちまえ」


「そ、そんな簡単にいく相手じゃ……」


ケビンは、自分の所属する部隊の隊長であるジルを、ずっと真近で見てきたのだ。

彼女が恐怖するのも仕方のないことなのかもしれない。



『もう紹介の必要はないかもしれませんね!対するは、先程激闘を繰り広げてくれた二人!!凄腕の女修羅"マサオ"!そしてあだ名はコロスケ"ケビン"だぁッ!!』


ワアアアアアアアアアアアッ!!


「ガンバレー!」


「死ぬなよー!」


観客達は口々に言葉をかける。

しかし、それは二人に対して喜ばしいものではない。



「……なんか、うちらが負ける前提みたいになってるぞ」


「ムム……なんかそれは悔しいな」


ザッ!


悪い意味で鬱陶しく、しかし良い意味で闘争心を刺激された二人は、緊張感から解放され、前に向き直る。


対するは勿論のこと、一歩前に出たジルである。



「…準備はいいようだな。手加減はせんぞケビン、そしてマサオとやら」


「ハンッ!名前を覚えていただけて光栄ですよ!」


「ワシだって…たまには勝ってみせます!」


三人に迷いは無かった。
ただ一人、ダズを除いて。

下剋上とも言えるこの戦いに入りきれない彼女は、後方に下がった。


「まっ、高見の見物でもさせてもらいますよ……」


内心から湧き上がる疼きを抑え、彼女は壁にもたれ掛かる。






『それでは…第二回戦……』


神咲は手にしたマイクを強く握り、大きく息を吸い込んだ。



『始めええええええぇッ!!』


ジャアアアアアアァァンッ!!


合図となるドラが勢いよく叩かれる。



「先制攻撃だ!行くぞケビンッ!!」


「オウッ!」


ババッ!


マサオの掛け声と同時に、二人は"後方の壁に向けて"勢いよく跳躍した。



「ほう…」


ジルは次に"何が来るか"、予想ができた。

だからこそ動かず、それに真っ向から対峙せんとする。



ダダンッ!


二人は両の足を壁につけ、勢いよくそれを蹴り飛ばす。



それはケビンがマサオに対して使い、最後に同じ手を持って打ち破られた技。

ケビンは己の体をバネのように使い、マサオは残影のスピードを利用し、宙を飛翔する。


「…っ!」


フォッ!


ジルは狙いが自分にあると分かっていたとしても、それが"いつ襲って来るか分からない"。

しかも、今回は一人ではない。

その二人の動きを同時に見切らなくてはならないのだ。


ジルは自分の横を通り過ぎ、壁を蹴るごとにスピードを増していく二人の気配を、ゆっくりと追っていった。



ダダンッ!ダンッ!ダダダンッ!



二人のスピードは既に観客達の目で追えないほどとなり、壁を蹴る音だけが闘技場に木霊する。



『凄まじいスピードです!息のあったコンビネーション技が炸裂しています!これはいつ攻撃が飛んで来るか全く予想ができないぞッ!!』


神咲の実況を聞き、ダズは目を細め、ジルの様子を見た。


そして、何かを悟り、小さく唇を吊り上げた。



「……範囲攻撃で一蹴する気は、無いみたいですね」


彼女が見た人類最強と言われる騎士は、驚くべき行動に出ていた。


ダズは言った。

イグニッションブレイクを放てば、いくら周囲を飛び回っていようが簡単に撃ち落とすことが出来る、と。



だが、ジルは"その瞳を閉じ、二人の気配だけを感じ取っていた"。


勿論、その手には未だ武器は握られていない。



会場をあまり壊すなという注意を真に受けているのか。

それとも、




「…………そこかッ!!」


ズオッ!


ジルが目を見開き、腕を伸ばした。



「えっ!?ワァッ!」


ガシィッ!


その腕は、"宙に浮く何か"を捕らえた。


そう。
ジルの掴んだものは、空中を飛翔し、ジルの横を通り過ぎようとしたケビン。



「ヌウウゥンッッ!!」


ゴオオオオッ!


ジルは恐ろしい腕力でケビンを振り回し、その勢いのまま彼女を投げ飛ばした。



そこに居たのは、



「ウワワワワワッ!」


「なっ!?」



同じく飛翔し、壁を蹴った瞬間の、マサオ。


ドゴオォッ!


二人は空中で衝突し、もつれ合うように壁に激突した。



ジルはケビンだけでなく、マサオの来る位置に彼女を投げ飛ばすことで、纏めてそれを封じてしまった。

とてもじゃないが、常人に真似できる技術ではない。



ガラッ


「クッソ…!」


「す、すまんマサオ氏ぃ……」


意表を突かれた、というより、その人間離れした力技を前に、二人はすぐに体勢を立て直すべく、立ち上がった。



「……こうなったら、接近戦しかない。案の定あちらの相方は手を出す気がないらしいしな……二対一ならこっちにも武がある」


「おう…!ワシのツインエッジで燃やし尽くして………っ!?」



しかし、ケビンは己が武器、"紅炎のツインエッジ"を引き抜いた瞬間、驚愕する。


マサオはケビンの目線を追った。

その先にいる、ジル=フィザットを。



その手に握られていたものは、




「悪いな、ケビン。勝手に拝借させてもらったぞ」



ケビンが持つ物と同じ、剣の柄のような短い棒。




ゴオオオオウゥッ!


次の瞬間、ジルの手にしたその柄から、凄まじい勢いで炎が噴出された。
それはまるで剣の刃のような形状に変化する。



燃え盛る、"蒼い炎"。





「……ワ……ワシのツインエッジイイイィィッ!!」



ジルの手にした剣。


その名は、"蒼炎のツインエッジ"。

紅炎のツインエッジと対を成す、強力な武器であった。




「お前に両方使わせるのは勿体無いと思ってな」


ザッ!


蒼い炎と共に、人類最強はゆっくりと歩みを進める。



「さあ、来い。貴様等を教育してやる」
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